ニコンFのカメラ修理

今日はあまりピンとくる記念日がないなぁ…と思い
1月24日に起きた出来事を調べていると…
1961年のこの日に社会現象にもなった
自動露出カメラ「キヤノネット」が発売になっています。
45mmF1.9の大口径レンズを固定式とし
距離計を装備しセレン光電池を使用した露出計を搭載し
その露出計と連動しシャッタスピード優先オート露出で
撮影ができるカメラです。
レンズ交換はできませんが
当時としては最先端の機能を搭載して
18,800円の衝撃の価格で発売されたカメラです。
キヤノンの社員たちが「自分たちの給料でも買えるカメラを」を
合言葉に開発されたという話が有名です
ちなみに当時の公務員大卒初任給が12,900円で
かけそば一杯が40円だった時代です。
発売直後は2週間分と見積もっていた在庫が
数時間で売り切れ社会現象にまでなったそうです。
一方カメラ業界からはダンピングであるという批判の声が上がりました。
キヤノネットの登場はカメラの低額化・高機能化に付いていけなくなった
多くのカメラメーカーが倒産・撤退するきっかけとなったのだそうです。
まさに時代を動かしたカメラだったのですね
61年前のお話です。

さてさて

で、今日の修理は「キヤノン」ではなくて
現代でもその最大のライバル「ニコン」のカメラで
エントリーモデルの「キヤノネット」とは正反対の
フラッグシップであり最高級でもある「F」の修理を行っています。
冒頭の話と正に正反対な立場のカメラですね。
キヤノネットも逸話の多くあるカメラですが
「ニコンF」はまさに「伝説のカメラ」です。
そのエピソードをあげ始めるとキリがないのでここでは触れませんが
この時代の日本を代表するカメラだったことに間違いはありません。
1959年3月に発売されたカメラです。

お預かりしている「F」はアイレベルファインダーを装備した
ベーシックなタイプです。
比較的初期の生産時期のものと思われます。
上カバー巻上側にはいわゆる「光学マーク」が刻印されています。
「F」のアイレベルファインダーというと
プリズム腐食がとにもかくにも心配されますが
今回の個体はファインダーから見る限り
大きな腐食はない模様です。
腐食のほぼないアイレベルファインダーというだけでも
もはや貴重な個体です。
しかしながら今回の個体もかなり長い間使われておらず
どこかに仕舞いこまれていたものと思われます。
ファインダー内部にはかなりのカビが発生しており
ファインダースクリーンのコンデンサレンズにも
大量のカビが付着しています。
でも装着されている55mmF1.2レンズは非常にクリアな状態のなのです
不思議ですねぇ…別の場所に保管してあったのかな…
何十年も放置されてたと思われますが
巻上はまずまずスムーズでシャッターは一応作動します。
そこはさすが「F」というところですが
残念ながら1/1000、1/500では全くシャッターが開きません。
先幕・後幕の幕速バランスが大きく崩れているようです。
スローガバナも動作はしますがシャッターが切れた後に
スパッと解除されず動作時と同じように「ジーッ」と作動音をさせて
戻っていく状態です。
加えてフィルムカウンターが全く動作していないようです。
やはりあちこちの動きが悪くなっているようです。

ただ、「F」は機械としての工作精度が非常に高いカメラで
なおかつ部品の強度もハンパなく高いです。
よほどのショック品や水没品、無茶な分解品でなければ
「機械に無理をさせないように」スムーズに動く処置をしてやれば
昔と同じように動作できるカメラです。
ここはさすがといった部分です。
もちろんシャッタスピード等の微調整は必要ですが
それほど大胆にいじくりまわす必要はありません。
必要な整備を行った後に巻上のラチェット音と
巻上完了時の「カチリ」といった作動音を聴いていると
本当に精度の高い機械であることが良くわかります
ミラー駆動部の部品なんて「これでもか!」といわんばかりのごつさです。
その分、どうしても大きく重いのは否定しませんが
この時代のニコンの質実剛健さが如実に表れた1台です。

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